複数拠点の社内ネットワークをつなぐ方法は、インターネットVPNだけではありません。10~20台程度の企業では、最初に「拠点間で何を共有するのか」を整理し、クラウド化、インターネットVPN、通信事業者の閉域網、広域イーサネットを比較する方が判断しやすくなります。
NASや社内サーバーを継続して使うならVPNや閉域網が候補になります。文書、表計算、メール、予定表が中心なら、拠点LAN同士を直接つながず、クラウドサービスへ移す方が管理しやすい場合があります。
選択肢の違い
| 比較項目 | インターネットVPN | 通信事業者の閉域網 | 広域イーサネット | クラウド利用 |
|---|---|---|---|---|
| 接続方式 | インターネット上に暗号化経路を作る | 事業者の閉じたIP網 | 離れたLANを同じLANのように接続 | 拠点同士を接続せず、共通サービスを利用 |
| 導入費用 | 低い | 中~高 | 高い | 低~中 |
| 月額費用 | 低い | 中~高 | 高い | 利用者数・容量に応じる |
| 通信の安定性 | 回線混雑の影響を受ける | 比較的高い | 高い | インターネット回線に依存 |
| 通信速度 | 回線・VPN機器に依存 | 契約帯域に依存 | 大容量通信に強い | サービス・回線に依存 |
| セキュリティ | 設定・機器管理が重要 | 外部から分離され安全性が高い | 高いが内部対策は必要 | アカウント・権限管理が重要 |
| 管理負担 | VPN機器の更新・監視が必要 | 事業者に任せられる範囲が広い | ネットワーク設計が複雑 | サーバー管理を減らしやすい |
| 障害時 | 自社と回線事業者で原因を切り分ける | 事業者のサポートを受けやすい | 事業者管理の範囲が広い | 回線またはクラウド障害の影響を受ける |
| 拠点追加 | 比較的容易 | 契約・工事が必要 | 設計変更や工事が必要 | アカウントと端末設定が中心 |
| 主な用途 | NAS、社内サーバー、リモート接続 | 安定性が必要な業務システム | 大容量データ、複数拠点のLAN統合 | 文書共有、メール、予定表、共同作業 |
費用、通信品質、保守範囲、暗号化の扱いは、事業者・契約・利用地域で変わります。 表は方式を比較する目安として使い、導入前に見積もりと仕様を確認してください。
通信事業者の閉域網を選ぶ場面
IP-VPNなどの閉域サービスは、一般のインターネット経由ではなく、通信事業者が管理する閉域ネットワークを使う方式です。サービスによって回線、帯域、保守範囲、暗号化の扱いは異なります。名称にVPNを含んでいても、一般的なインターネットVPNと同じ構成とは限りません。
自社でVPN装置を更新・監視する担当を確保しにくく、拠点間で業務システムを安定して使いたい場合に候補になります。一方で、費用、提供地域、開通までの期間、拠点追加の条件は事前に見積もりと仕様で確認します。
広域イーサネットを選ぶ場面
NASの大容量ファイルや社内サーバーを頻繁に使い、拠点間の通信量が多い場合は、広域イーサネットを検討します。構成によっては複数拠点を一つのLANに近い形でつなげられます。
ただし、LANを広くつなぐほど、設定ミスや不要な通信の影響範囲も広がります。会社・部署・用途ごとにVLANやファイアウォールで分け、どの通信を許可するかを設計します。回線を共有する複数会社では、ネットワークを分離し、相互に不要な通信ができないことを確認します。
拠点同士を直接つながない方法
ファイル共有、メール、予定表、共同編集が中心なら、社内ファイルサーバーをクラウドストレージへ、社内メールをMicrosoft 365やGoogle Workspaceなどへ置き換える方法があります。拠点LANを直接接続しないため、サーバーやVPN装置を自社で持つ範囲を減らせます。
ただし、特殊な社内システム、非常に大きなファイル、低い遅延が必要な作業には合わない場合があります。現在のファイル量、同時利用者、回線品質、業務停止時の代替手段を確認して決めます。
ゼロトラスト型接続とSD-WAN
ゼロトラスト型接続は、ネットワーク全体を信頼するのではなく、利用者、端末、接続先ごとに認証・権限を確認する考え方です。必要な人だけに必要なシステムを使わせる設計にします。多要素認証、端末の管理状態、最小権限を組み合わせます。
SD-WANは複数の回線や通信経路を統合して制御する仕組みです。拠点数が多い、回線障害に備えたい、通信を用途別に制御したい場合に検討します。製品によっては暗号化トンネルを使うため、「VPNを使わない」ではなく、「自社でVPN装置を管理しない」ことが目的なのかを明確にします。
10~20台程度の企業での確認順
- 共有しているデータ、社内サーバー、業務システムを一覧にする。
- クラウドへ移せる業務と、社内に残す必要がある業務を分ける。
- 残すシステムについて、必要な通信量、利用者、拠点、停止できる時間を確認する。
- インターネットVPN、閉域網、広域イーサネットを、費用だけでなく更新・監視・障害対応の担当まで含めて比較する。
- 導入後は、利用者ごとの権限、端末更新、バックアップ、接続記録、障害時の連絡手順を確認する。
VPN機器には脆弱性が報告されることがあります。公開設定を最小限にし、更新が提供されている機器を使い、パッチ適用や監視を継続します。閉域網やVPNを導入しても、端末感染、過剰な権限、バックアップ不足まで自動で解決するわけではありません。
情報の確認先
- NTTPC「IP-VPN」:閉域網を利用するIP-VPNの説明を確認しました(2026-08-11)。
- NTT東日本 法人向けサービス:広域イーサネットの提供形態は地域・サービスごとに確認してください(2026-08-11)。
- IPA「VPN機器等に対するネットワーク貫通型攻撃のおそれについて」:機器更新、公開設定の最小化、監視などを確認しました(2026-08-11)。
- Microsoft Learn「Zero Trust」:明示的な検証、最小権限、侵害を前提とする考え方を確認しました(2026-08-11)。
関連ページ
- VPN:VPNの意味、必要な機器、最小構成で試す方法を確認できます。
- クラウド:拠点LANを直接接続しない選択肢を検討する際の用語です。
- 情報セキュリティ:回線方式にかかわらず必要な権限・更新・監視の考え方を確認できます。
関連する構築ガイド
VPNを使った拠点間ネットワーク構築ガイドでは、VPNを選んだ場合の構成、費用、導入順序を確認できます。