レンタルサーバーに大きな障害が発生しても、サーバー会社がホームページやメール、失われたデータをすべて元に戻してくれるとは限りません。
補償や損害賠償について話し合うことはできます。しかし、補償が決まるまで業務を止めて待つわけにはいきません。
自分の事業を守るために、現実的にできることは次の3つです。

- 信頼できるサーバーを選ぶ
- サーバーとは別の場所に、復元可能なバックアップを持つ
- 業務を止められない場合は、メールの別保存とサイトの待機環境を用意する
スマイルサーバーで発生した深刻な事態
NTTスマートコネクトが提供するレンタルサーバー「スマイルサーバー」では、2026年7月24日、一部のサーバー設備で第三者による不正アクセスが確認されました。
被害拡大を防ぐため、対象サーバー上のすべてのサービスが停止されました。
2026年8月19日時点の公式発表では、次の状態が続いていました。
- ホームページやメールなどのサービスを利用できない
- サーバー内のデータを利用者へ渡すことができない
- 利用者自身でホームページやメール環境を再構築する必要がある
- 復旧環境の提供開始は、2026年9月中旬頃を目標としている。ただし、調査結果により時期が前後する可能性がある
- 顧客情報が外部に漏えいした事実は確認されていないが、調査は継続中
データを渡せない理由は、不正アクセスの影響を受けている可能性があり、そのまま利用すると二次被害につながるおそれがあるためです。
サービスを停止した判断自体は、被害拡大を防ぐために必要だったと考えられます。
しかし、対象利用者から見れば、約4週間にわたって元のサーバーを利用できず、データも取り出せない状態でした。NTTスマートコネクト公式発表
誰かが元に戻してくれるとは限らない
レンタルサーバーを利用していると、サーバー会社がホームページやメール、データを常に保護してくれているように感じます。
ところが、実際の責任範囲は契約やサービス仕様によって異なります。
スマイルサーバーの利用規約では、サーバー内のデータが滅失、毀損、漏えいした場合でも、同社に故意または重大な過失がある場合を除き、原則として責任を負わない内容になっています。
サービスをまったく利用できなかった場合の賠償も、利用できなかった時間と料金を基準に上限が定められています。逸失利益などの間接損害は、賠償対象外とされています。スマイルサーバ サービス利用規約
仮にホームページの再構築に数十万円かかっても、同じ金額が補償されるとは限りません。
メールが使えなかったことで商談を失っても、それを損害として証明し、サーバー会社へ請求するのは簡単ではありません。
なお、今回の不正アクセスについては、2026年8月19日時点で原因や影響範囲が調査中です。顧客情報が外部に漏えいした事実は確認されていませんが、調査完了前であり、スマイルサーバ側の過失を断定することはできません。
補償されてもデータは戻らない
金銭的な補償を受けられたとしても、次のものが自動的に元へ戻るわけではありません。
- 長年更新してきたホームページの記事
- WordPressの設定やカスタマイズ
- お問い合わせフォームから受信した内容
- サーバー上だけに保存されていたメール
- 顧客から預かった画像やPDF
- 会員情報や予約情報
- 制作途中のファイル
- 障害直前に更新されたデータ
消失したデータが唯一のものであれば、金銭では取り戻せません。
サーバー会社と責任について話し合っている間も、ホームページの再構築、メールの再設定、顧客への説明が必要です。
結局、復旧作業をするのは自分か、自分が依頼した制作会社・システム会社になります。
「バックアップ機能がある」だけでは不十分
サーバー会社がバックアップ機能を提供していても、それだけで安心とはいえません。
確認すべきなのは次の点です。
- 何日分保存されるのか
- どのデータが対象なのか
- メールも保存されるのか
- 復元は自分で行うのか、サーバー会社が行うのか
- 復元に費用がかかるのか
- 障害発生時にもバックアップへアクセスできるのか
- 本番サーバーとは別の設備に保存されているのか
- 不正アクセスを受けた場合でも安全に取り出せるのか
今回のようにサーバー設備全体が調査対象になれば、同じ環境にあるバックアップも、すぐには利用できない可能性があります。
必要なのは、サーバー会社が用意したバックアップとは別に、自分で管理するバックアップを持つことです。
バックアップはサーバーの外に置く
WordPressサイトであれば、少なくとも次のデータをサーバー外へ保存します。
- WordPressのデータベース
- テーマ
- プラグイン
- アップロード画像
- PDFなどの掲載ファイル
- wp-config.phpなどの設定情報
- DNSやメールアカウントの設定記録
保存先には次のような選択肢があります。
- 別会社のクラウドストレージ
- 別会社のサーバー
- 社内のNAS
- 外付けSSD
- 制作会社が管理するバックアップ環境
重要なのは、稼働中のサーバーと同時に失われない場所へ保存することです。
同じサーバー内の別フォルダにコピーしただけでは、サーバー全体が停止した場合に取り出せません。
バックアップは「ある」ではなく「戻せる」が基準
バックアップを保存していても、実際に復元できなければ意味がありません。
よくあるのが次のような状態です。
- バックアップファイルが壊れている
- データベースしか保存されていない
- 画像ファイルが含まれていない
- 保存処理が数か月前に止まっている
- 復元方法を誰も知らない
- 管理画面のパスワードが分からない
- 契約担当者が退職している
- 復元先のサーバーを用意できない
バックアップは定期的に復元テストを行う必要があります。
テスト環境や別のサーバーへ復元し、次の内容を確認します。
- ホームページが表示される
- WordPressの管理画面へログインできる
- 画像やPDFが表示される
- お問い合わせフォームが動作する
- 必要なデータが復元されている
IMAPはメールサーバーが止まると利用できない
IMAPは、サーバー上にあるメールを複数の端末から確認するための仕組みです。
メールソフトが過去のメールをパソコン内に保存していれば、サーバー停止中でも一部を読める場合があります。
しかし、次のメールは確認できない可能性があります。
- パソコン内に保存されていない過去のメール
- ダウンロードされていない添付ファイル
- サーバー停止後に届いた新着メール
- 別の端末だけで確認していたメール
サーバーが停止してから過去のメールを取り出そうとしても、サーバーへ接続できなければ何もできません。
過去メールを別のメールサービスにも保存する
対策の一つが、普段から別のメールサービスへメールを転送しておくことです。
会社のメールアドレスに届いたメールを、別事業者のメールサービスにも転送します。
これにより、契約しているメールサーバーが停止しても、転送済みの過去メールを別のサービスから確認できます。
設定時には次の点を確認します。
- 元のメールサーバーとは別の事業者を使う
- 転送先に十分な保存容量を確保する
- 顧客情報や機密情報を保存してよいサービスか確認する
- 迷惑メール判定や転送失敗の有無を確認する
- 転送先にも二要素認証を設定する
- 実際にメールが届いているか定期的に確認する
同じサーバー内に別のメールアドレスを作って転送しても、サーバー全体が停止すれば一緒に使えなくなります。
転送だけでは新着メールを守れない
別サービスへの転送は、過去メールを確認する対策にはなります。
ただし、元のメールサーバーが停止してメールを受信できない場合は、転送処理そのものが動きません。
つまり、サーバー停止後に送られた新着メールまで、必ず転送先へ届くわけではありません。
メールを継続して受信するには、緊急時にメールの配送先を示すDNSのMXレコードを、別のメールサービスへ切り替えられるように準備しておく必要があります。
これは単純な転送設定より難しくなります。
メールを止められない企業では、事前にサーバー会社や制作会社と切り替え方法を確認しておくべきです。
サイトは別サーバーに待機環境を用意する
ホームページも、バックアップを保存するだけでなく、別のサーバーに同じサイトを用意しておく方法があります。
料金はかかりますが、次の構成にします。
- 通常運用する本番サーバー
- 本番サイトのデータを定期的に同期する別会社の待機サーバー
- 障害発生時に切り替えられるDNSの管理環境
本番サーバーが停止した場合は、ドメインの接続先を示すDNSを待機サーバーへ切り替えます。
元のサーバーが復旧するまで、別のサーバーでホームページを表示できます。
「自動転送」というよりは、別サーバーへの「同期・複製」と考えた方が正確です。
待機サーバーは事前の動作確認が必要
別のサーバーを契約してWordPressをコピーするだけでは不十分です。
事前に次の内容を確認します。
- 別サーバーでも正常に表示できるか
- WordPress、テーマ、プラグイン、画像、データベースが同期されるか
- PHPやデータベースのバージョンに問題がないか
- SSL証明書を利用できるか
- お問い合わせフォームからメールを送信できるか
- DNSを切り替える権限と手順が整理されているか
- 元のサーバーへ戻す手順が決まっているか
更新頻度の低い会社案内サイトであれば、1日1回程度の同期でも実用になる場合があります。
一方、次のようなサイトでは単純な定期コピーだけでは不十分です。
- ECサイト
- 予約サイト
- 会員サイト
- 掲示板や投稿機能のあるサイト
- 頻繁にお問い合わせ情報を保存するサイト
障害直前の注文や予約が待機サーバーへ同期されていなければ、切り替え時にデータが失われます。
更新頻度の高いサイトでは、短い間隔での同期やデータベースの複製など、より専門的な構成が必要です。
DNSの切り替えも事前準備が必要
障害が起きてからDNSの管理情報を探していると、復旧が遅れます。
次の内容を整理しておきます。
- DNSを管理している会社
- 管理画面へログインできる担当者
- 二要素認証の復旧方法
- 変更するDNSレコード
- 待機サーバーのIPアドレス
- メール用MXレコードの切り替え先
- 切り替え前後の確認手順
DNSを変更しても、すべての利用者へ即時に反映されるとは限りません。
DNSには、情報をどの程度の時間保存するかを示すTTLがあります。TTLが長いと、接続先を変更しても古いサーバーへアクセスする状態がしばらく続きます。
障害対策として待機サーバーを運用する場合は、平常時からTTLと切り替え手順を確認しておく必要があります。
バックアップと待機環境は目的が違う
バックアップ、メール転送、待機サーバーには、それぞれ別の役割があります。
| 対策 | 主な目的 |
|---|---|
| バックアップ | 消失・改ざんしたデータを過去の状態へ戻す |
| メールの別保存 | 転送済みの過去メールを別環境から確認する |
| 予備メール環境 | 元のメールサーバー停止中も新着メールを受信する |
| 待機サーバー | 本番サーバー停止中もサイトを表示する |
| DNS切り替え | 利用者の接続先を待機環境へ変更する |
バックアップがあっても、復元作業が終わるまでサイトは表示できません。
待機サーバーがあっても、改ざんされたデータまで同期してしまえば、正常な状態へ戻せないことがあります。
そのため、重要なサイトでは次の両方が必要です。
- すぐに切り替えられる待機環境
- 過去の正常な状態へ戻せる複数世代のバックアップ
信頼できるサーバーをどう選ぶか
有名企業や大企業が運営しているから、絶対に障害が起きないとはいえません。
見るべきなのは会社名だけではなく、サービスの内容です。
- 障害情報を迅速に公開しているか
- 過去の障害原因と再発防止策を説明しているか
- バックアップの保存場所と世代数が明確か
- 復元方法と費用が明記されているか
- サポート窓口へ連絡できるか
- セキュリティ更新を継続しているか
- 二要素認証やアクセス制限を利用できるか
- サービス停止時の代替環境があるか
- 利用規約の免責範囲を確認できるか
- 事業用途に必要な可用性が確保されているか
月額料金の安さだけで選ぶと、障害時の復旧作業や営業損失の方が高くなる場合があります。
ただし、高額なサーバーなら安全ということでもありません。
保存するデータの重要度と、停止した場合の影響に合わせて選ぶ必要があります。
制作会社に任せている場合も確認する
ホームページの管理を制作会社へ任せている場合も、何をどこまで任せているのか確認します。
- バックアップを取っているのは誰か
- どこへ保存しているのか
- 何世代保存しているのか
- 復元作業は保守料金に含まれるのか
- 別サーバーへの緊急移転に対応できるか
- メールの転送や予備環境を用意できるか
- ドメインとDNSの管理権限を誰が持っているか
- サーバー契約者は誰か
- 復旧に必要なIDとパスワードを誰が管理しているか
「制作会社に任せているから大丈夫」ではなく、障害発生時に誰が何をするのかを決めておく必要があります。
事故が起きる前に確認する
最低限、次の対策は行えます。
- サーバー外へ毎日バックアップする
- 複数世代のバックアップを残す
- 定期的に復元テストを行う
- 重要メールを別のメールサービスにも保存する
- 緊急時のメール受信方法を確認する
- ドメイン、DNS、サーバーの管理情報を整理する
- サイトを止められない場合は待機サーバーを用意する
- DNSとメールの切り替え手順を決める
- 緊急時に依頼する担当者を決める
- 保守契約の復旧範囲を確認する
すべてのサイトに高度な冗長化が必要なわけではありません。
まずは、現在のサーバーが今日使えなくなった場合に、どのデータが残り、誰がどのように復旧するのかを確認することです。
誰かが守ってくれることを前提にしない
サーバー会社には、安全なサービスを提供する責任があります。
大きな事故が発生した場合には、原因を調査し、利用者へ説明し、必要な補償を行うべきです。
しかし、事故が起きたあとにサーバー会社の責任を追及しても、業務に必要なデータがすぐに戻るとは限りません。
誰もホームページを再構築してくれない。
誰もメールを再設定してくれない。
誰も失われたデータを元に戻してくれない。
だからこそ、何も起きていないときに準備しておく必要があります。
バックアップは、壊れたデータを元に戻すためのものです。
待機環境は、障害中も業務を続けるためのものです。
この2つを分けて考えることが、サーバー障害から事業を守る最初の一歩になります。
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