原材料費や人件費、電気料金、物流費などが上昇し、商品の価格を維持することが難しい企業は少なくありません。事業を継続し、従業員の雇用や商品の品質を守るために、値上げが必要になる場合もあります。
問題は、値上げそのものではありません。
価格を変えずに内容量や品質を下げ、その変更を消費者に十分伝えないことや、「物価が上がっているから値上げは仕方がない」という社会の風潮に便乗して、必要以上に価格を引き上げることです。
「とにかく儲ける」は企業理念にならない
企業には利益が必要です。利益がなければ、事業の継続も設備投資も賃上げもできません。
しかし、理念が「とにかく儲けること」、目標が「消費者を騙してでも購入させ、売上を伸ばすこと」であれば、社会から長く支持される企業にはなりません。
現在は、商品の変更や企業の対応がSNSや口コミで広がりやすい時代です。一人が抱いた不信感は家族や知人に伝わり、さらに多くの人へ共有される可能性があります。
短期的に利益を得られても、「この会社には騙された」という印象が残れば、その後の商品選びにも影響します。一度失った信頼を取り戻すには、長い時間と継続した努力が必要です。
ステルス値上げが不信感を生む理由
価格を変えずに内容量を減らすことは、一般に「ステルス値上げ」と呼ばれます。
企業側には、店頭価格を維持して消費者の負担感を抑えたいという事情があるかもしれません。内容量の変更がすべて不適切とは限りません。
問題になるのは、変更内容を分かりやすく伝えないことです。
これまでの内容量や品質に納得して購入していた消費者が、説明のない変更に気づけば、「値上げを隠された」「騙された」と感じる可能性があります。
企業側の事情が正当であっても、説明が不足すれば、その意図は消費者に伝わりません。
ステルス値上げには実務上の負担もある
内容量を変更する場合、単に中身を減らせば終わるわけではありません。
- パッケージと表示内容の変更
- 製造機械や製造工程の調整
- 原材料の使用量と配合の見直し
- 在庫や商品コードの管理
- 取引先や販売店への連絡
- 広告、カタログ、Webサイトの修正
変更箇所が増えれば、作業量だけでなく、表示ミスや製造上のトラブルが起きる可能性も高くなります。
通常の価格改定でも、取引先への連絡や店頭・システム上の価格変更は必要です。しかし、内容量や品質まで変更する場合に比べれば、対応範囲を限定しやすくなります。
消費者への見え方だけでなく、社内の作業量やトラブルの可能性も含めて判断する必要があります。
円安を理由とした値上げは、企業全体で考える
円安になると、海外から輸入する原材料、商品、燃料などの円換算価格は上昇します。輸入への依存度が高い企業にとって、円安が大きな負担になることは事実です。
一方、円安はすべての企業に不利益を与えるわけではありません。
外貨建てで商品を輸出している企業は、海外で得た売上を円に換算したときの金額が増えます。海外子会社から受け取る利益や配当も、円換算では増加する可能性があります。
例えば、円安によって輸入原材料費が2,000万円増えても、輸出による利益が5,000万円増えれば、差し引きでは3,000万円の増益です。
したがって、輸出も行っている企業が円安を値上げの理由にする場合は、輸入コストの増加だけでなく、輸出や海外事業による利益も含めて考える必要があります。
ただし、輸出している企業が必ず増益になるわけではありません。
- 輸出額より輸入額の方が大きい
- 海外売上が円建てである
- 海外で生産し、費用も外貨で支払っている
- 為替予約で交換レートを固定している
- 国内売上の減少が輸出利益を上回っている
このような場合は、輸出を行っていても、円安が企業全体の利益を押し下げる可能性があります。
外部から個々の企業の原価や為替取引を正確に把握することは困難です。そのため、「輸出企業の値上げは不当」と一律に判断することも適切ではありません。
問題は、企業全体では円安による利益が増えているにもかかわらず、輸入原材料費の上昇だけを示して値上げを正当化することです。円安によって負担が増えた部分と、利益が増えた部分の両方を踏まえた説明が求められます。
便乗値上げと正当な価格改定は分けて考える
円安や物価高の時期には、「値上げは仕方がない」という認識が社会に広がります。企業が事業を継続するために必要な価格改定まで否定するべきではありません。
一方で、この風潮を利用した値上げには注意が必要です。
- コストの上昇が一部の商品に限られるのに、すべての商品を一律に値上げする
- コスト上昇を大きく超える幅で価格を引き上げる
- 原材料価格や為替が落ち着いても価格を見直さない
- 値上げの理由を具体的に説明しない
- 円安による利益には触れず、負担だけを強調する
これらの事実だけで、直ちに便乗値上げと断定することはできません。企業には、将来の仕入価格、設備投資、賃上げ、財務状況など、外部から確認しにくい事情もあるためです。
だからこそ、企業には可能な範囲で説明する姿勢が必要です。
値上げは正直に説明する
私は、値上げが必要であれば、理由と今後の対応を正直に説明する方がよいと考えます。
原材料費や人件費の高騰により、現在の価格を維持することが難しくなりました。大変心苦しいのですが、価格を改定します。今後も経費削減や業務の合理化を進め、可能な限り価格を抑える努力を続けます。
この説明に加えて、対象商品、改定時期、改定幅を明確にすれば、消費者は値上げの内容を正しく判断できます。
すべての原価や利益率を公開する必要はありません。しかし、何がどのように変わり、企業としてどのような対策を行ったのかは説明できます。
業務改善は、消費者を欺くためのものではない
業務改善の目的は、短期的な利益だけを増やすことではありません。
無駄な作業を減らし、トラブルを防ぎ、商品の品質を維持する。従業員が働きやすい環境を整え、消費者に適正な価格で商品やサービスを提供する。その結果として利益を確保し、事業を継続することが本来の目的です。
値上げを隠す工夫や、社会の風潮に便乗する方法を考えることは、業務改善とはいえません。
価格を変更するときに必要なのは、消費者に気づかれないための工夫ではなく、変更の理由を説明し、理解を得る努力です。
企業の利益と消費者の信頼は、どちらか一方を選ぶものではありません。誠実な説明によって信頼を守ることが、長期的な利益と企業の継続につながります。