拠点間VPNとは
拠点間VPNは、離れた事業所のネットワークをインターネット経由で接続する仕組みです。インターネット上に暗号化した通信経路を作り、本社・工場・支店などを必要な範囲でつなぐために使います。
本社のNASや業務システムを、工場、支店、別のオフィスから利用できます。一般的には、各拠点にVPN対応ルーターを設置します。VPNは通信経路を作る技術です。接続しただけで、すべてのデータや機器が自動で共有されるわけではありません。利用者・機器ごとのアクセス権限は別に設定します。
拠点間VPNでできること
- 本社のNASやファイルサーバーを支店から利用する
- 工場と事務所で同じ業務システムを使う
- 複数店舗の売上データを本部に集める
- 防犯カメラや設備の状態を本社で確認する
- データのバックアップを別拠点へ保存する
プリンターや一部のネットワーク機器も共有できますが、遅延、通信量、権限を確認します。自宅から利用する場合は、自宅ネットワーク全体を会社へ接続せず、利用者・端末・接続先を限定します。
拠点が増えても追加しやすい設計
拠点を追加する場合は、回線、VPN対応ルーター、拠点専用のネットワーク番号、本社側のVPN設定、アクセス権限を順に追加します。拠点ごとに異なるネットワーク番号を割り当てると、接続先を判別しやすくなります。
| 拠点 | ネットワーク番号の例 |
|---|---|
| 本社 | 192.168.10.xxx |
| 工場 | 192.168.20.xxx |
| 支店A | 192.168.30.xxx |
| 支店B | 192.168.40.xxx |
| 自宅作業場 | 192.168.50.xxx |
すべての拠点で同じ192.168.1.xxxを使うと、通信先を判別できず、追加時に問題になる場合があります。実際の番号は既存環境と重複しないように設計します。
基本となる接続方法
複数拠点では、本社を中心にするハブ・アンド・スポーク型が分かりやすい構成です。本社と各拠点をVPNで接続し、支店同士の通信は必要な場合だけ許可します。重要なデータやサーバーを本社側に置き、拠点の追加時は本社側へ設定を追加します。
すべての拠点を相互に直接接続する構成は、拠点数が増えるほど設定と保守が複雑になります。将来の拠点数と、どの拠点間で通信が必要かを先に整理して選びます。
クラウドとの比較
文書、表計算、メール、予定表などが中心なら、拠点のLAN同士を直接つなぐ前に、クラウドサービスで共有できるかを確認します。クラウド方式では、各拠点が共通サービスへ接続します。VPNのように拠点LAN全体をつなぐ構成とは目的が異なります。
| 比較項目 | 拠点間VPN | クラウド利用 |
|---|---|---|
| 基本の考え方 | 離れた拠点のネットワークを接続する | 各拠点が共通のサービスを利用する |
| 向くデータ・業務 | 既存NAS、社内サーバー、拠点内で動く業務システム | 文書、表計算、メール、予定表、共同作業 |
| 主な管理対象 | ルーター、経路、拠点番号、アクセス制限 | アカウント、権限、端末、保存先、サービス設定 |
| 拠点追加 | 回線、ルーター、VPN設定を追加する | アカウント・端末・権限の設定が中心 |
| 注意点 | 一拠点の感染や設定不備を他拠点へ広げない | 共有設定、認証、通信回線、サービス停止時の対応を確認する |
既存のNASや社内専用システムを継続利用するならVPN、クラウドで置き換えられる業務ならクラウドを優先候補にします。すべてをどちらか一方に統一する必要はありません。文書共有はクラウドへ移し、残す必要がある社内システムだけをVPNで接続する併用構成もあります。
判断する前に、共有するデータ、ファイル容量、利用者数、社外からの利用、停止できる時間、移行できない業務システムを一覧にします。クラウドを使う場合も、アカウント管理、権限、端末更新、バックアップは必要です。
費用の概算
次表は、既存のインターネット回線を使う2拠点VPNの比較用モデルです。A社・B社・C社は実在企業の見積書ではありません。光回線、プロバイダー、固定IP、LAN配線、Wi-Fi機器の費用は含めていません。
| 比較 | 買い切り型 | レンタル・遠隔管理型 | 構築・保守一括型 |
|---|---|---|---|
| VPNルーター | 6万~16万円 | 月額6,000~1万円程度 | 初期費用に含む場合あり |
| 設定・設置費用 | 5万~15万円 | 3万~10万円 | 15万~40万円 |
| 初期費用合計 | 11万~31万円 | 3万~10万円 | 15万~40万円 |
| 月額保守費用 | 0~1万円 | 6,000~2万円 | 1万~4万円 |
| 機器故障時 | 自社で購入・交換 | 契約範囲で交換 | 保守会社が対応 |
| 向いている企業 | 管理担当者がいる | 管理を任せたい | 運用全体を任せたい |
拠点追加では、VPNルーター1台3万~10万円、設定3万~10万円、現地設置・確認2万~8万円、月額保守3,000~1万円程度が目安になります。回線費用は地域・契約条件で変わります。ルーター本体だけでなく、設定、故障時の交換、保守、拠点追加まで含めて比較します。
公開料金の参考例
NTT東日本のギガらくルーターでは、Type-Dの中小規模拠点向けハイエンドプランが月額3,300円、Type-Cの中小規模拠点向けハイエンドプランが月額4,950円と案内されています。回線・プロバイダー、設置工事などは別途条件があります。料金や提供条件は変更されるため、契約前にNTT東日本の料金ページを確認してください。
サブスクリプション型では、設定変更やトラブル対応、拠点間VPN構築を支援するサービスがあります。対応範囲、故障時の交換、現地作業、夜間・休日対応は契約ごとに確認します。サービス詳細も確認してください。
導入の順序
- 接続場所と目的を整理する。
接続する拠点、将来の拠点数、同時利用者、NAS・業務ソフト・カメラなどの対象、ファイル容量、停止できる時間を一覧にします。 - 現在の回線とネットワークを確認する。
回線、プロバイダー、IPv4・IPv6の接続方式、固定IP、既存ルーター、ネットワーク番号、接続機器数を確認します。IPv4 over IPv6では、VPN方式やルーターの組合せを契約前に確認します。 - VPNの構成と保守方法を決める。
本社を中心にし、拠点ごとに異なる番号を割り当てます。来客用Wi-Fiは社内ネットワークから分離します。購入・レンタル・保守一括のいずれで、誰が障害対応するかを決めます。 - 設定・設置・接続試験を行う。
暗号化、ファイアウォール、アクセス制限、管理画面のパスワード変更、不要機能の停止、更新、ログ保存を設定します。必要なNASへ接続できること、許可していない通信ができないこと、大きなファイルの速度、再起動後の復旧を確認します。 - 設定資料を残し、更新を続ける。
拠点名、ネットワーク番号、回線、ルーター型番、VPN接続先、担当者、保守連絡先、変更履歴、設定ファイルを保管します。パスワードは構成資料と分けて管理します。
セキュリティ上の注意
VPNで通信を暗号化しても、接続したPCやNASが安全になるわけではありません。OS、セキュリティソフト、ルーターのファームウェアを更新し、NAS・サーバーの権限を利用者ごとに設定します。一つの拠点の感染を他拠点へ広げないため、必要のない通信を許可しないことが必要です。
来客用Wi-Fiと社内ネットワークを分離し、不要になった拠点・アカウントは削除します。多要素認証を使える管理画面では設定します。IPAは、ルーターなどの機器にパッチを適用し、サポート終了機器の更新・交換を検討するよう案内しています。
導入前に決めておくこと
- 現在と将来の拠点数、各拠点の利用人数
- 共有するデータ・業務システム・1日の通信量
- 自宅・外出先からの利用、カメラ・設備接続の有無
- 障害時に許容できる停止時間
- 自社で管理するか、保守会社へ任せるか
- 初期費用と月額費用の希望範囲
複数社へ見積もりを依頼する場合は、同じ条件を提示します。条件が違う見積書では金額を正確に比較できません。
関連する用語・ガイド
- VPN:拠点間接続の基本となる仕組み
- ルーター:VPN接続を管理する機器
- LAN:拠点内の機器をつなぐネットワーク
- 情報セキュリティ:権限・更新・バックアップを確認する考え方
- VPN以外も含めた拠点間接続の選び方:閉域網、広域イーサネット、クラウドとの比較
情報の確認先と掲載範囲
構築手順と注意点は一般的な拠点間VPNを前提にしています。費用は拠点数、回線、ルーター性能、現地作業、保守範囲で変わるため、表の金額は比較用の概算です。個別の構成・見積りは、回線事業者または保守会社へ確認してください。