一般的な問い合わせフォームには、会社名、氏名、メールアドレスと、大きな自由入力欄が置かれています。
利用者にとって自由度が高い一方で、営業文をそのまま貼り付けやすく、フォーム営業にも使われやすい構造です。大量の営業連絡が届けば、本来対応すべき顧客や既存取引先からの問い合わせが埋もれるおそれがあります。
そこで考えたいのが、問い合わせフォームを「何でも書ける場所」から「目的別の受付システム」へ変えることです。
営業を全面的に拒否するのではありません。顧客対応と営業提案の入口、入力項目、受信先を分けます。必要な提案は受け付けながら、通常の問い合わせを守る設計です。
基本構成
最初に問い合わせの目的を選んでもらい、選択内容に応じて必要な項目だけを表示します。
お問い合わせ
├─ 見積もり・制作相談
├─ 既存のお客様・取引先
├─ サポート
├─ 採用について
├─ 営業・広告・サービス提案
└─ その他
裏側では、通常の問い合わせと営業提案の送信先を分けます。
顧客・取引先・見積もり相談
→ contact@example.com
営業・広告・サービス提案
→ proposal@example.com
問い合わせページを二つに分ける方法でも、同じページ内で選択内容に応じてフォームを切り替える方法でも構いません。重要なのは、送信後に人やAIが仕分けるだけでなく、入口の段階で目的を分けることです。
通常フォームには必要な項目だけを表示する
すべての利用者に大きな自由入力欄を表示する必要はありません。問い合わせの目的に応じて、回答に必要な項目を用意します。
見積もり・制作相談
- 会社名・団体名
- 氏名
- メールアドレス
- 希望するサービス
- 予算帯
- 希望時期
- 現在のWebサイトの有無
- 必要な場合だけ表示する補足欄
既存のお客様・取引先
- 会社名・氏名
- 対象案件
- 問い合わせ種別
- 発生している症状や希望する対応
- 必要に応じた詳細欄
選択肢、チェックボックス、数値、日付などを中心にすれば、利用者は何を書けばよいか迷いにくくなります。受け取る側も内容を確認しやすくなり、聞き直しを減らせます。
自由入力欄は「廃止」ではなく「条件付き表示」にする
自由入力欄を完全になくすと、用意した選択肢に当てはまらない相談を受け取れません。そのため、通常フォームでは条件付きで表示する方法を推奨します。
例えば、次の場合だけ補足欄を開きます。
- 「その他」を選んだ場合
- 「補足事項があります」にチェックした場合
- 症状や依頼内容について追加説明が必要な場合
補足欄には、次のような制限も設定できます。
- 最大300~500文字
- URLは1件まで
- HTMLタグは受け付けない
- 同一内容の短時間での連続送信を制限する
営業文を入力する場所を完全になくすのではなく、必要な利用者だけが適切な範囲で使えるようにします。
営業受付フォームは提案内容を構造化する
営業・広告・サービス提案を受け付ける場合は、通常フォームとは別の項目を表示します。
- 会社名
- 担当者名
- サービス名
- 提案カテゴリ
- 提案概要
- 自社にとって想定されるメリット
- 料金・料金体系
- 公式URL
- 資料URL
- 希望する対応
- 再連絡を希望するか
必要事項を項目ごとに入力してもらえば、定型文を貼り付けるだけの営業は送りにくくなります。受け取った提案も同じ形式で並ぶため、比較や管理がしやすくなります。
受信先を分ければ、AI分類は必須ではない
通常問い合わせと営業提案を別のメールアドレスで受信すれば、到着後にAIですべてのメールを分類する必要はありません。
- 通常問い合わせは即時通知する
- 営業提案は通知を弱くする
- 営業提案は専用フォルダへ保存する
- 営業提案だけ週に一度まとめて確認する
この方法なら、API料金がかからず、AIによる誤分類もありません。顧客情報を外部AIへ送らずに済む点も重要です。
通常フォームを選ぶ営業への対策
受信先を分けても、営業側が意図的に通常問い合わせを選ぶ可能性は残ります。フォームの分岐だけですべて防げるわけではありません。
通常フォームには、次のような案内を明記します。
営業・広告・サービス紹介・人材紹介等のご連絡は、「営業・ご提案」を選択してください。通常のお問い合わせとして送信された営業目的の内容は受け付けておりません。
そのうえで、次の対策を組み合わせます。
- CAPTCHAやTurnstileなどのbot対策
- 利用者には見えないhoneypot入力欄による自動送信の検出
- 送信回数や送信間隔の制限
- 本文の文字数・URL数の制限
- 同一文面の連続送信の検出
- 問い合わせ種別と本文内容の整合性確認
- 営業キーワードによるスコア判定
隠し入力欄でbotの自動入力を検出する
フォーム内に、通常の利用者には表示しない入力欄を一つ用意します。人が画面を見ながら入力する場合、この欄は空のままです。一方、フォーム上の入力欄へ機械的に値を入れるbotは、隠し欄にも会社名やURLなどを入力することがあります。送信時にこの欄へ値が入っていた場合は、迷惑メールの疑いがある送信として判定します。
<div class="form-trap" aria-hidden="true">
<label for="website_confirm">この欄は入力しないでください</label>
<input type="text" id="website_confirm" name="website_confirm"
tabindex="-1" autocomplete="off">
</div>
ここで使うのは、HTMLのtype="hidden"ではなく、通常のテキスト入力欄をCSSで画面外へ隠す方法です。type="hidden"はbot側にも隠し項目だと分かりやすく、入力対象から除外されることがあるためです。キーボード操作や読み上げの妨げにならないよう、フォーカス対象から外し、支援技術からも除外します。
判定は必ずサーバー側で行います。値が入っていた送信は通常の受信箱へ通知せず、迷惑メール候補として記録または隔離します。ただし、ブラウザーの自動入力などで値が入る可能性もあるため、この条件だけで即時削除せず、送信間隔、URL数、同一文面などの条件と組み合わせます。この仕組みは単純な自動入力botへの対策であり、すべてのbotやAIを使った営業送信を防ぐものではありません。
単語が一つ含まれているだけで拒否すると、正当な問い合わせまで止めるおそれがあります。複数の条件を組み合わせ、判断が難しいものは隔離フォルダへ送る方が安全です。
AIは「すり抜け対策」と「提案の整理」に限定する
AIを使う場合も、全件の仕分けを任せる必要はありません。フォーム構造、受信先、bot対策で分けた後の補助として使います。
通常フォームの内容確認
選択された問い合わせ目的と本文が一致しているかを確認します。
例えば、問い合わせ種別が「見積もり相談」であるにもかかわらず、本文がSEOサービスや人材紹介の売り込みであれば、営業の可能性が高いと判定できます。
ただし、AIの判定だけで削除するのは避けます。営業の疑いがある内容は、拒否または隔離するなど、後から確認できる運用にします。
営業提案の採点
営業受付フォームに届いた提案を、次のような項目で整理できます。
- 自社業務との関連性
- 提案内容の具体性
- 費用の明確さ
- 導入効果の説明
- 既存業務との適合性
- 要確認事項
AIには「採用・不採用」を決定させるのではなく、確認する順番を付ける役割を持たせます。顧客情報や機密情報を扱う場合は、外部AIへ送信してよい内容かを事前に決めておく必要があります。
推奨する処理の流れ
1.問い合わせ目的を選択
↓
2.目的別の入力項目を表示
↓
3.必要な場合だけ補足欄を表示
↓
4.bot・送信回数・入力内容を検査
↓
5.顧客用または営業用の受信先へ送信
↓
6.判断が難しい内容だけ補助判定
表示文の例
営業・サービス提案について
当社では、営業・広告・サービス紹介等のご連絡を専用窓口で受け付けています。
通常のお問い合わせフォームへの営業目的の送信はご遠慮ください。営業・ご提案は「営業受付専用フォーム」よりお願いいたします。
導入時の確認項目
- 通常問い合わせと営業提案の選択肢が分かりやすいか
- 選択内容に応じて必要な項目だけが表示されるか
- 営業提案の送信先が通常問い合わせと分かれているか
- 正当な問い合わせに必要な補足欄が残っているか
- スマートフォンでも入力しやすいか
- 必須項目を増やしすぎていないか
- bot対策と送信回数制限が動作しているか
- 誤判定した内容を確認できるか
- 個人情報の保存先と保存期間が決まっているか
- エラー時に入力内容が失われないか
効果の確認
導入前後で、通常問い合わせに混入した営業連絡数、問い合わせの確認から担当者への振り分けまでの時間、聞き直しが必要だった件数、正当な問い合わせが隔離された件数を記録します。営業連絡が完全になくなることを完成条件にせず、本来の問い合わせを見落としにくくなったか、利用者が入力しやすくなったかを人が確認します。
問い合わせフォームを「受付業務」として設計する
問い合わせフォームは、メールを送るためだけの設備ではありません。顧客、取引先、見積もり相談、サポート、採用、営業提案など、異なる目的の連絡を受け付ける業務の入口です。
入口で目的を分ければ、本来の問い合わせが営業連絡に埋もれにくくなります。利用者も必要事項を入力しやすくなり、受け取る側の確認や振り分けも減らせます。
「何でも書いてください」という自由記述中心のフォームを、目的に合わせて案内する受付システムへ変える。
迷惑営業への対策だけでなく、問い合わせ対応全体を見直す改善になります。