AIが会社にかかってきた電話を受け、相手と会話しながら用件を確認する仕組みは、すでに技術的に実現できる段階にあります。
さらに、電話で聞き取った内容を整理して、
- 顧客情報を登録する
- 予約を登録する
- 担当者へ通知する
- 問い合わせ記録を作成する
- 必要に応じて人へ電話を転送する
といった事務処理までつなげることも可能です。
ただし、AI電話対応は、導入すれば必ず業務が改善するものではありません。
電話件数、問い合わせ内容、既存システム、個人情報の扱い、人が判断すべき業務などを整理したうえで、どこまでAIに任せるのかを設計することが重要です。
このガイドでは、AI電話対応を検討する際に必要となる構成、選定基準、構築方法、運用上の注意点を整理します。
1.まず全体の仕組みを理解する
AI電話対応は、一つのAIだけで動いているわけではありません。
基本的には、複数の仕組みを組み合わせて構築します。
電話 → 音声認識 → AIによる会話・判断 → 内容の整理 → 業務システムへの登録 → 担当者への通知
という流れが基本になります。
現在は、TwilioのConversationRelayのように電話、音声認識、音声合成、AIとの接続を組み合わせる仕組みが提供されています。
Amazon Connectでも、AIが音声で利用者と直接会話し、必要な情報を検索したり処理を実行したりしながら、必要な場合は人へ引き継ぐ構成が用意されています。
したがって、AI電話対応を検討するときは、
「どのAIを使うか」
だけではなく、
電話から社内業務までを一つの流れとして設計する
ことが必要です。
図1:AI電話対応の基本構成

必要に応じて途中から人による電話対応へ切り替えます。
2.構築に必要なもの
AI電話対応を構築する場合、主に次の要素が必要になります。
| 構成要素 | 役割 | 確認したいポイント |
|---|---|---|
| 電話サービス | 着信を受ける | 既存番号を使えるか、転送できるか |
| 音声認識 | 相手の声を文字化する | 日本語精度、方言、雑音への強さ |
| 音声合成 | AIの回答を音声にする | 自然さ、速度、聞き取りやすさ |
| AI | 会話内容を理解して回答する | 日本語能力、業務ルールへの対応 |
| 業務システム連携 | 登録・検索・通知を行う | API対応、既存システムとの接続 |
| 業務ルール | AIの対応範囲を決める | 人へ引き継ぐ条件を明確にする |
| セキュリティ | 情報を保護する | 保存期間、権限、ログ、録音 |
特に重要なのが、既存システムとの連携方法です。
電話対応だけなら比較的簡単に導入できますが、
- CRMへ登録する
- Google Calendarへ予約する
- 在庫を確認する
- メールを送る
- WordPressや社内システムへ情報を登録する
といった処理を行わせる場合、APIなどによる連携が必要になります。
3.何をAIに任せるかを決める
AI電話対応を検討するときは、まず対象業務を選びます。
すべての電話をAIだけで処理する必要はありません。
むしろ、内容がある程度決まっている電話から始める方が構築しやすくなります。
問い合わせ受付
たとえば、
「営業時間を教えてください」
「請求書を再発行してほしい」
「商品の在庫を確認したい」
といった問い合わせです。
AIが用件を聞き取り、必要に応じて顧客情報や商品情報を確認します。
予約受付
AIが、
- 希望日
- 希望時間
- 氏名
- 電話番号
- 希望サービス
などを聞き取り、予約システムの空き状況を確認します。
予約可能であれば、そのまま登録することもできます。
修理・サポート受付
たとえば機器トラブルなら、
- 製品名
- 型番
- 症状
- エラー番号
- 発生日時
などを順番に確認します。
聞き取った情報を整理して、担当者へ渡すことができます。
営業電話の一次受付
営業電話について、
- 会社名
- 担当者名
- 営業内容
- 連絡先
だけを聞き取り、記録することもできます。
担当者が必要な案件だけ後から確認する仕組みにすれば、電話による作業中断を減らせます。

AI電話対応に向いている業務
| 向いている | 慎重に扱う |
|---|---|
| 営業時間案内 | 契約変更 |
| 資料請求 | 高額注文 |
| 予約受付 | 返金 |
| 修理一次受付 | 強いクレーム |
| 担当者への取次ぎ | 法的判断 |
| 営業電話の受付 | 医療・安全に関する判断 |
AIに任せる範囲を最初に決めることが重要です。
4.電話の後に発生する事務処理まで考える
AI電話対応の効果を考えるときは、電話で会話している時間だけを見ない方がよいでしょう。
多くの職場では、電話の後にも作業が発生しています。
従来の例では、
**電話を受ける
→ メモする
→ パソコンへ入力する
→ 担当者へ連絡する
→ メールを送る**
という流れがあります。
AIと業務システムを連携すると、
**電話を受ける
→ AIが内容を整理する
→ システムへ自動登録する
→ 担当者へ通知する**
という流れへ変更できます。
たとえば資料請求なら、
- AIが電話を受ける
- 会社名、氏名、住所などを聞く
- 内容を構造化する
- 顧客データへ登録する
- 資料発送依頼を作成する
- 確認メールを送る
- 担当者へ通知する
といったところまで自動化できます。
図3:電話から事務処理までの流れ
**電話受付
↓
必要事項の聞き取り
↓
内容を構造化
↓
システム登録
↓
通知・メール・予約などを実行
↓
必要な案件だけ人が確認**
AI電話対応では、会話そのものより、その後の転記・登録・連絡を削減できるかが重要な検討ポイントになります。
5.サービス・システムを選定する
AI電話対応を構築する方法は一つではありません。
クラウド電話サービス、コンタクトセンター製品、AI APIなどを組み合わせて構築する方法があります。
選定するときは、少なくとも次の項目を確認します。
電話番号・電話回線
- 現在の電話番号を利用できるか
- 電話転送で導入できるか
- SIPに対応しているか
- 通話品質は十分か
日本語の音声認識
電話では文字入力と違い、音声認識の精度がそのまま使いやすさに影響します。
特に、
- 人名
- 会社名
- 地名
- 型番
- 数字
- 方言
について確認しておく必要があります。
青森県など地域性のある会話を想定する場合は、実際の利用者に近い話し方でテストする方が確実です。
AIとの連携
AIには、
- FAQ
- 商品情報
- 料金
- 営業時間
- 業務ルール
- 社内マニュアル
などを参照させます。
ただし、価格や在庫など変動する情報については、AIに覚えさせるだけではなく、業務システムから取得する構成が適しています。
API・外部システム連携
事務処理まで自動化するなら重要な項目です。
確認したいのは、
- APIが用意されているか
- Webhookを利用できるか
- CRMと接続できるか
- Google Calendar等へ接続できるか
- メールを送信できるか
- 自社システムと連携できるか
といった点です。
セキュリティ
電話には個人情報や取引情報が含まれる場合があります。
したがって、
- 録音の有無
- 保存場所
- 保存期間
- アクセス権限
- AIへ送信するデータ
- ログ管理
を確認します。
図4:サービス選定チェック
- 音声認識の精度
- 日本語対応
- 電話番号の継続利用
- APIの充実度
- 既存システムとの連携
- セキュリティ
- 料金体系
- サポート体制
- 人への転送機能
- ログ・履歴管理
価格だけではなく、既存業務とのつなぎやすさを重視した方がよいでしょう。
6.AIが回答してよい情報を整理する
AIに会社の情報を渡すだけでは不十分です。
どの質問にどう答えるかを整理する必要があります。
たとえば、
AIが回答できるもの
- 営業時間
- 所在地
- サービス概要
- 基本料金
- FAQ
- 予約可能時間
システムを確認して回答するもの
- 在庫
- 最新価格
- 予約状況
- 注文状況
- 顧客情報
人へ引き継ぐもの
- 契約内容の変更
- 返金
- クレーム
- 特別値引き
- 法的判断
- 安全に関する判断
というように分類します。
AIに「何でも答えてよい」と設定しないことが重要です。
7.聞き間違いを前提に設計する
音声認識は完全ではありません。
特に、
「B」と「D」
「4」と「7」
など、電話音声では聞き間違いが発生する可能性があります。
重要な情報については、
「ABC-123でよろしいでしょうか」
と復唱させます。
また、
2回認識できなければ人へ転送する
といったルールも有効です。
8.人への引き継ぎ条件を決める
AI電話対応で重要なのが、エスカレーション設計です。
たとえば、
- AIが質問を理解できない
- 相手が人との対応を希望する
- クレームである
- 高額な取引である
- 判断権限を超えている
場合には、人へ引き継ぎます。
現在のAIコンタクトセンター製品でも、AIによる自動対応と人への引き継ぎを組み合わせる考え方が採用されています。
AIと人を競合させるのではなく、役割を分ける設計が現実的です。
9.個人情報と録音の扱いを決める
電話では、
- 氏名
- 電話番号
- 住所
- メールアドレス
- 注文履歴
- 契約内容
などを扱う可能性があります。
導入前に、
- 何を録音するか
- 何を文字として保存するか
- AIに何を送信するか
- 何日保存するか
- 誰が閲覧できるか
を決めておきます。
必要以上の情報をAIへ渡さない設計も重要です。
10.最初から完全自動化しない
AI電話対応を導入する場合は、段階的に構築した方が安全です。
STEP1 電話内容を記録する
**電話
→ 文字起こし
→ 要約
→ 担当者通知**
まずはここから始めます。
STEP2 用件を分類する
- 注文
- 修理
- 問い合わせ
- 営業
- その他
などへ自動分類します。
STEP3 簡単な回答を自動化する
営業時間やFAQなど、回答が明確なものをAI対応にします。
STEP4 業務システムと連携する
- 予約
- 顧客登録
- 問い合わせ登録
- メール
- 社内通知
などを連携します。
STEP5 効果を確認して範囲を広げる
実際の電話内容を分析し、
「この問い合わせならAIに任せられる」
というものから少しずつ対象範囲を広げます。
11.期待できるメリット
AI電話対応によって期待できる主な効果は次のとおりです。
電話対応時間を減らせる
定型的な問い合わせをAIが処理すれば、人が対応する電話件数を減らせます。
入力作業を減らせる
電話内容をそのまま構造化して登録できれば、転記作業が減ります。
営業時間外でも受付できる
24時間すべての業務を行う必要はありません。
夜間は、
「受付だけAIが行い、翌営業日に担当者が確認する」
という使い方もできます。
電話内容をデータとして分析できる
電話内容が記録されれば、
- 問い合わせ件数
- 商品別問い合わせ
- 時間帯
- クレーム内容
- よくある質問
などを集計できます。
これまで担当者の記憶やメモに残っていた情報を、業務改善へ利用できます。
12.問題点も確認しておく
AI電話対応にはメリットだけではありません。
音声認識ミス
聞き間違いは完全にはなくなりません。
AIの誤回答
AIが存在しない情報を回答しないよう、参照情報や業務ルールを制限する必要があります。
個人情報
録音、文字起こし、AIへの送信について管理が必要です。
導入・運用コスト
電話料金、音声認識、AI API、サーバー、システム連携など複数の費用が発生する可能性があります。
利用者がAI対応を望まない場合
電話をかける人によっては、人との対応を希望する場合があります。
人へ切り替えられる経路を残しておく方が安全です。
13.導入前のチェックリスト
- [ ] AI電話対応を導入する目的が明確になっている
- [ ] 対象にする電話業務を決めている
- [ ] AIに任せない業務を決めている
- [ ] 人へ引き継ぐ条件を決めている
- [ ] 音声認識を実際の電話環境で確認している
- [ ] 個人情報の保存方法を決めている
- [ ] 録音・ログの運用を決めている
- [ ] 既存システムとの連携方法を確認している
- [ ] 障害時の代替電話ルートを用意している
- [ ] 少人数・限定業務から試験導入する
まとめ
AI電話対応は、単に「人の代わりにAIが電話に出る仕組み」ではありません。
業務改善という観点では、
**電話
→ 情報取得
→ 内容整理
→ データ登録
→ 事務処理
→ 必要なものだけ人が対応**
という一連の流れを構築できることに大きな意味があります。
一方で、すべての電話対応をAIへ置き換える必要はありません。
まずは、
- 同じ質問が多い
- 電話件数が多い
- 電話後の転記が多い
- 予約受付が多い
- 営業電話による中断が多い
といった業務から検討すると、導入効果を判断しやすくなります。
AI電話対応を導入すること自体を目的とするのではなく、現在の電話業務のどこに手間が発生しているかを整理し、その部分に合う仕組みを選定することが重要です。
公式情報と関連用語
音声・電話サービスの仕様や料金は変わるため、導入時点でTwilio ConversationRelayの公式ドキュメント、Amazon Connectの公式ドキュメントを確認してください。個人情報の取扱いは、個人情報保護委員会のガイドラインと自社の規程・契約を確認します。サイト内ではAPI・API連携、個人情報、ワークフローも参照してください。
関連リンク
音声の入出力と電話後の顧客情報管理を理解するには、音声認識、音声合成、CRM(顧客関係管理)を参照してください。